Lkb1+/-マウスにおける肝前癌病変(Nodular foci)と肝細胞癌(HCC)の発生機序を解析し、以下の結果を得た。 (1)Catnb+/lox(ex3):Lkb1+/-複合変異マウスを作出し、約1年齢で肝細胞特異的に活性型β-cateninを発現させ2ケ月後に肝臓を観察したところ、Lkb1+/-マウスに比較してHCCの発生数が増加した。また、活性型β-cateninの発現のみではHCCの発生はみられなかった。複合変異マウスに発生したHCCではLKB1の発現が失われていたことから、Lkb1のLOHによって発生した前癌病変にさらにβ-cateninの活性化が加わることによってHCCへの悪性化が促進されることが示された。 (2)前癌病変およびHCCでは、正常肝臓で見られる索状構造を失っていることから、細胞極性や細胞骨格に何らかの異常が起きていることが予想される。そこでapical面である微小胆管を観察したところ、前癌病変とHCCでは微小胆管の構造が乱れていた。そこで微小胆管に局在する蛋白の免疫組織染色を行ったところ、複数の蛋白の発現が低下していることが分かった。このことから、LKB1が極性の制御を通して発癌を抑制する可能性が示唆された。 (3)LKB1はセリンスレオニンキナーゼであり、代表的な基質としてはエネルギー代謝に関わるAMPKと細胞極性制御に関わるMARKが知られている。前年度我々はLKB1がMARKの活性化を通してチュブリン重合を抑制することを示したが、AMPKについても細胞極性との関連が報告されている。そこでLKB1ノックダウン細胞とLkb1-/-線維芽細胞においてAMPKの活性化を調べたところ、LKB1に依存せずAMPKの活性化が起こることが分かった。これらの結果から、主にLKB1-MARKシグナルが細胞極性維持に重要な役割を果たしていると考えられた。
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