ABC輪送体ABCG2/BCRPはマイトザントロン、SN-38(イリノテカンの代謝活性化体)、トポテカンなどの抗癌剤を細胞外に排出するポンプとして働き、腫痛細胞に抗癌剤耐住を引き起こす。今までの研究によりエストロゲンレセプター陽性乳癌細胞株では、ABCG2の発現がエストロゲンにより転写以降の段階で劇的に抑制されることが分かっていたが、エストロゲン自体の生理作用のためABCG2の発現抑制のために使用することは困難であった。 そこでエストロゲンに変わりABCG2の発現抑制を可能にする薬剤耐性克服剤を探索する目的で、内因性にABCG2を発現している乳癌細胞株MCF-7、胃癌細胞MKN1、NCI-N87にABCG2を安定的に高発現させたMCF7/ABCG2、MKN1/BCRP、N87/ABCG2細胞を樹立して様々な化合物によるABCG2の発現量の変化について検討した。 MCF-7/ABCG2、MKN1/ABCG2、N87/ABCG2細胞の外因性ABCG2発現はp44/p42Mitogen-activated protein kinase(MAPK)阻害剤であるPD98059とU0126によって濃度依存性に著しく抑制された。これらの化合物はMCF-7/ABCG2、N87/ABCG2細胞のSN-38とマイトザントロンに対する耐性をほぼ完全に克服した。EACSによる解析で、この薬剤耐性の克服は細胞内への抗癌剤取り込みの亢進によるものであることが示された。半定量RT-PCRとreal-time RT-PCRによる解析ではPD98059とU0126によるABCG2 mRNAの転写量には変化が認められなかった。サイクロヘキサマイドにより蛋白質の新親合成を停止させABCG2蛋白質量を経時的にウエスタンブロットで解析したところPD98059存在下ではABCG2蛋白質の半減期短縮が認められた。 PD98059によるABCG2蛋白質の分解亢進はユビキチン/プロテオソーム阻害剤であるMG132では抑制されず、エンドソーム阻害剤であるバフィロマイシンA1によって完全に抑制された。以上の結果によりP44/p42MAPK経路を抑制することによってABCG2のエンドソームでの分解が亢進し、薬剤耐性の克服が可能であることが明らかとなった。これらの結果はp44/P42mapk阻害剤が安全で有効な癌化学療法の確立に役立つかもしれないことを示している。
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