BHD産物(Flcn)に結合するFnip1の遺伝子に相同性を示す新たな遺伝子(FNIPL)を見出した。強制発現系を用いて調べたところ、FnipL産物もFlcnと結合することが明らかとなった。欠失変異体の解析から、結合ドメインは双方のC末端領域に見出された。さらにFnipLの共発現によりFlcnの局在が核から細胞質優位になることがわかり、その局在変化は結合に依存することが示唆された。またFnipLはFnip1と同様にAMPKによりリン酸化された。HeLa細胞において、RNAiによりFlcn、Fnip1、FnipL各々を抑制した場合、S6K1のリン酸化が低下した。これらの結果から、Flcn-Fnipl/FnipL複合体がmTOR経路を正に制御する可能性が示唆された。一方、EkerラットのTsc2欠損腎癌細胞株においてラバマイシン処理を行い、リン酸化によるFlcnのバンドシフトが抑制されることを見出した。またTsc2欠損腎癌細胞にTsc2発現系を導入した細胞においてもリン酸化の抑制が観察された。Rheb発現によるFlcnのリン酸化の亢進、Raptorの発現抑制によるリン酸化の抑制も確認され、Tsc2〜mTORC1のシグナル伝達経路によりFlcnのリン酸化が制御されていることが明らかとなった。また欠失変異体を用いた解析により、AMPKによるFlcnリン酸化部位が306-342番目のアミノ酸残基の領域に存在することが示唆された。これとは異なるN末端領域の主要なリン酸化セリン残基があることも質量分析により明らかとなった。以上の結果から、Flcnは複雑なリン酸化の制御を受ける蛋白であり、mTORを中心としたシグナル伝達系と相互作用し、腫瘍発生の抑制に関与していると考えられる。
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