マウス第18番染色体上に存在する肺発がん抵抗性遺伝子座Par2(Pulmonary adenoma resistance 2)は、多遺伝子支配下にあるマウスの遺伝的肺発がん感受性を修飾する因子の一つである。平成17年度までの研究により、Par2の有力な候補遺伝子としてPoltを同定することができた。PoltはDNA損傷乗越え能力を有するDNAポリメラーゼをコードしており、発がん物質等によって損傷を受けたDNAの複製や修復に関与しているものと考えられる。よって、このポリメラーゼのアミノ酸多型による機能変化が、肺発がんの第一段階であるイニシエーションの効率に影響するものと推測される。事実、Par2は二段階発がんにおけるイニシエーション感受性を支配することが、我々の研究で明らかになっている。 本研究では、Par2のポジショナルクローニングの最終段階として、Poltノックアウトマウスを作製し、その肺発がん感受性を検討する予定である。今年度はノックアウトに必要なターゲティングベクターの設計ならび作製と、その胚幹細胞株への導入を行ったが、ノックアウトマウス創出に適する胚幹細胞クローンを得ることができなかった。既に約600個のクローンをスクリーニングしていることより、同じターゲティングベクターを用いてのノックアウトクローンのスクリーニング継続は成功の可能性が低いと判断された。Polt遺伝子の場合、同遺伝子にnonsense mutationを有する129系統マウスが致死でないことから、ヘテロ状態でPolt遺伝子がノックアウトされた胚幹細胞が致死となってしまう可能性は想定し難い。よって、来年度以降は新たなターゲティングベクターの設計と作製を行い、適切なノックアウトクローンの獲得を目指す。
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