我々はHoxがvagalとtrunk神経堤細胞の性格の差を規定する内因性因子の候補であるという仮説を立てている。Hoxによる神経堤細胞の分化制御のメカニズムを解明するために、Hox遺伝子を遊走する神経堤細胞に過剰発現させ、神経堤細胞のphenotypeに変化が生じるかどうかを検討した。特に、trunk神経堤細胞優位に発現するHoxB8と神経堤細胞特異的に発現するRet(チロシンキナーゼ型レセプターでGDNFのレセプター)との関係を調べた。神経堤細胞は神経管の背側から遊走を開始するので、外来遺伝子の発現をStage9〜10ニワトリ胎児の神経管の背側に限局するように、電極の位置を工夫した。神経管から遊走する細胞にはelectroporationされたGFPが発現しており、神経堤細胞のマーカーである抗HNK1抗体との二重染色を行うと、GFP陽性細胞はHNK-1陽性であり、GFP陽性細胞は遊走する神経堤細胞であった。このように、遊走する神経堤細胞にほぼ限局して外来遺伝子を強制発現させることが可能である。stage 9のposterior hindbrainに相当する神経管の背側にHox B8をelectroporationすると、食道へ遊走しつつあるvagal神経堤細胞の一部の細胞がラベルされる(Stage 16の咽頭弓の水平断)。Vagal神経堤細胞はRet陽性であるが、HoxB8を強制的に発現するGFP陽性の神経堤細胞にはRetの発現はみられない。以上のことから、in vivoにおいて、HoxB8は神経堤細胞におけるRetの発現を抑制していることが示唆された。
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