エピジェネティックな異常の蓄積は、細胞制御機構の破綻、特に遺伝子の発現制御の異常をひきおこし発がん過程における重要な鍵となる。本年度はエピジェネティックなメカニズムのうちDNAメチル化修飾とヒストンの翻訳後修飾およびそれぞれの修飾をつかさどる酵素の発現解析を肝細胞がん症例および肝がん細胞株において行なった。DNAメチル化をパイロシークエンス法で、ヒストン修飾に関しては、クロマチン免疫沈降法(ChIP法)を用いて、また修飾酵素の発現をリアルタイムPCRで確認した。P16遺伝子のDNAメチル化は、分化度の低いがん部で有意に高レベルで検出された。DNAメチル化レベルとP16遺伝子の発現には相関が観察された。一方RASSF1A遺伝子やERα遺伝子は背景肝部(慢性肝炎・肝硬変)でも既に中等度のメチル化が観察された。また、肝がん細胞株による検討で、プロモーター領域のDNAメチル化が低レベルであるにも関わらず、発現が不活化されている遺伝子群が観察され、それらの遺伝子は、X遺伝子不活化に特徴的にみられるピストンH3リジン27(H3-K27)の3つのメチル化(トリメチル化)で修飾されていた。さらに遺伝子発現の再活性化には、特異的ヒストンH3-K27トリメチル化酵素であるEZH2の発現抑制や、トリコスタチンAなどのピストン脱アセチル化酵素阻害剤処理が有効であった。プロモーター領域でのヒストンメチル化の亢進と一致して、ヒストンメチル化酵素G9a、EZH2の有意な発現上昇が肝細胞がんで観察された。一方DNAメチル化酵素DNMT1、DNMT3Bの発現はがん部と非がん部で差を認めなかった。肝細胞がんの発がん過程において、従来のDNAメチル化の関与に加えて、ヒストンのメチル化異常の関与が強く示唆され、DNAメチル化とヒストン修飾は、遺伝子に応じて協調もしくは独立して発現制御に関与していると考えた。
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