研究概要 |
エピジェネティックな異常の蓄積は、細胞制御機構の破綻をひきおこし発がん過程における重要な鍵となる。昨年度ヒトがん(肝細胞がん)を用いた解析から、ヒストンメチル化酵素のうち、ヒストンH3-リシン(K)9ジメチル化酵素G9aの有意な発現上昇が観察され、肝細胞がんの発がん過程においてヒストンメチル化異常の関与が強く示唆された。本年度はG9aとヒストンH3-K9トリメチル化酵素SUV39H1のがん細胞における役割に焦点を絞り解析を行なった。shRNAを用いて前立腺がん細胞株(PC3)でG9aとSUV39H1の恒常的ノックダウン細胞株(G9a-KD,SUV-KD)を樹立した。G9a-KD、SUV-KDはコントロール株(Ctrl)と比し細胞増殖抑制が観察され細胞老化の形態的変化を呈した。G9a-KD、SUV-KDとコントロール株(Ctrl)のRNA発現をマイクロアレイで比較した結果、予想に反してわずか4遺伝子(G9a-KD)、6遺伝子(SUV-KD)の発現上昇が観察された。FACSと核型解析からG9a-KDで染色体数の増加が観察された。この所見と一致して中心体の形態と数にも異常を認めた。同様の現像は肺がん細胞株、乳がん細胞株のG9a-KDでも観察された。さらにG9a-KD、SUV-KDともにテロメア領域の短小化が確認された。特にG9a-KDではテロメア長を保つhTERT遺伝子の発現低下していたが、SUV-KDでは、hTERT遺伝子の発現変化がなく、むしろヒストン修飾異常によるテロメアの不安定性が関与している可能性が推測された。がん細胞の恒常性の維持には、ヒストン修飾酵素G9aとSUV39H1がそれぞれ異なった様式で関与しており、これらの酵素によるH3-K9メチル化の制御が重要であることが本研究から明らかとなった。両酵素は新しいエピジェネティクス治療の標的となりうることが示唆された。
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