研究概要 |
エピジェネティックな異常の蓄積は、細胞制御機構の破綻をひきおこし発がん過程における重要な鍵となる。平成18年度は、エピジェネティックなメカニズムのうちDNAメチル化修飾とヒストンの翻訳後修飾、およびそれぞれの修飾をつかさどる酵素の発現解析を肝細胞がん症例および肝がん細胞株において行なった。肝細胞がんの発がん過程において、ヒストンメチル化酵素のうち、ヒストンH3-リシン(K)9ジメチル化酵素G9aの有意な発現上昇が観察された。従来のDNAメチル化の関与に加えて、ヒストンのメチル化異常の関与が強く示唆され、DNAメチル化とヒストン修飾は、遺伝子に応じて協調、もしくは独立して発現制御に関与していると考察した。平成19年度はG9aとヒストンH3-K9トリメチル化酵素SUV39H1のがん細胞における役割に焦点を絞り解析を行なった。G9aとSUV39H1の恒常的ノックダウン細胞株(G9a-KD,SUV-KD)はコントロール株(Ctrl)と比し細胞増殖抑制が観察され細胞老化の形態的変化を呈した。特にG9a-KDでは染色体数の増加、中心体の形態と数に異常の蓄積を認めた。さらにG9a-KD、SUV-KDともにテロメア領域の短小化が確認された。がん細胞の恒常性の維持には、ヒストン修飾酵素G9aとSUV39H1がそれぞれ異なった様式で関与しており、同酵素群によるH3-K9メチル化の制御が重要であることが本研究から明らかとなった。本研究により、がんのエピジェネティクスを考えていく上でヒストンメチル化酵素は新しいエピジェネティクス治療の標的となりうることを示す結果を得ることができた。
|