Min mouse[Adenomatous polyposis coli(Apc)(+/-)]は、生後12〜18週程で小腸・大腸に多数の腫瘍を発生する。約12日齢のMin mouseにX線照射すると、小腸・大腸の腫瘍発生が増強し、dextran sulfate sodium(DSS)投与によって誘発される炎症をプロモーターとして、X線照射にるよる潜在的な発がんイニシエーションの有無を検討すると、Min mouseのみならず野生型においても腫瘍発生が増強した。そのメカニズムの解明のため、C3H⇔Green mouseキメラマウスを用いて、DSS誘発大腸漬瘍の修復過程を検討した。5〜6週齢のキメラマウス2%DSSを7日間飲水投与し、実験第8日、10日、14日、21日にbromodeoxyuridine(BrdU)で1時間ラベル後、屠殺した。DSS投与により、大腸に多数の潰瘍が発生した。潰瘍部の粘膜欠損部分に一致して、間質組織にCox-2が陽性となり、上皮の欠損の大きさとCox-2発現領域の大きさには強い相関が見られた。潰瘍に隣接する陰窩では、腺底部に多数のくびれ(fission)が出現し、細胞分裂と共に陰窩の分裂を示し、潰瘍に最も近い陰窩で最も高度であった。びらん部を修復する上皮は、隣接する陰窩上皮と同系統の上皮が伸展することにより修復され、その後、一層の修復上皮の一部に徐々に陰窩の形態を形成すると共にBrdU陽性の増殖単位が出現した。異なる系統由来の上皮の境界部(patch boundary)に細胞増殖がおこる確率は低く、びらん修復上皮の増殖はランダムな事象であると結論づけた。以上より、胃あるいは大腸等の消化管潰瘍修復過程における、潰瘍に隣接する陰窩の強いfissioningと細胞増殖が発がんプロモーションに何らかの役割を果たしている可能性が示唆された。
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