ニューロリギン(NLGN)4遺伝子の発現解析と転写制御領域の解析を進めた。NLGN4は神経細胞で高発現し、特に室傍核、視索上核で発現が高く、これによりNLGN4の社会性への機能が示唆された。 転写制御領域に関しては、エクソンの異なる複数の転写開始点の存在が示唆された。このうち最も主要なものと考えられたエクソン1A上流270塩基はNLGN4を発現する神経芽細胞株では転写活性を示すが、NLGN4を発現しない上皮細胞株では転写活性を有さず、この領域が細胞特異的発現に必要十分な転写制御エレメントを有することが示唆された。この領域には主要な神経細胞特異的転写因子の結合配列は見られず、転写因子複合体の細胞種による構成の違い等をさらに検討する必要がある。この結果から翻訳流域以外でのNLGN4遺伝子の変化と自閉症発症との関係を臨床遺伝学的に解析するための基盤となる情報が得られた。 自閉症発症にはエピジェネティックな遺伝子発現制御の関与が提唱されているため、NLGN4遺伝子のメチル化状況を検討したところ、培養細胞株由来、およびヒト組織由来遺伝子DNAでNLGN4の発現状況に対応して、この遺伝子のプロモーター領域がメチル化されていることを示す十分なデータを蓄積した。これによりひと組織においてNLGN4遺伝子はメチル化によるエピジェネティックな発現制御を受けていることが明らかとなった。この結果から環境要因が自閉症発症に与える影響の分子基盤を解明していく一つの糸口になることが期待される。
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