Trypanosoma cruzi感染細胞ではFasを介するアポトーシスが抑制され、宿主抑制因子c-FLIPの発現が上昇することを明らかにしてきた。c-FLIPタンパク質はユビキチン-プロテアソーム系により分解されることが知られているが、がん細胞などでは分子内のシステイン残基がニトロソ化されることによりユビキチン化が起こらず、細胞内に蓄積されることが報告されている。そこで、原虫感染細胞においてc-FLIPのニトロソ化が起きるかどうか調べた。ヒト由来培養細胞にT. cruziを感染させ2〜4日培養し、ライセートを調整した。抗c-FLIP抗体により免疫沈降し、上清および沈殿画分について抗ニトロソシステイン抗体でイムノブロットを行った。非感染細胞では沈殿画分にc-FLIPが検出されたがニトロソ化されているものはほとんど認められなかった。一方、感染細胞では沈殿および上清画分にc-FLIPが認められ、上清画分では抗ニトロソシステイン抗体に反応するバンドが検出された。以上より、感染細胞のc-FLIPはニトロソ化が起こっている可能性が示唆された。感染細胞におけるプロテアソーム活性を測定したところ、非感染細胞のKm値は56μM、 Vmax値は0.22 RFU min-1 μg-1に対し、感染細胞ではKm値は50μM、 Vmax値は1.67 RFU min-1 μg-1であり、Vmax値が感染細胞で高いことが示された。この理由の1つとしては、原虫のプロテアソーム活性も同時に測定されたためと考えられた。以上より、感染細胞でもc-FLIPのユビキチン化は起こり、プロテアソーム活性は非感染細胞よりもむしろ高く、おそらく正常に働いていることが示唆された。c-FLIPがニトロソ化されたことから、原虫感染により活性酸素種の生成が起きている可能性が示された。
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