有効なワクチンを得るためには宿主の防御免疫応答の本態を明らかにすることが重要である。しかしながらワクチンの開発が必要であるマラリアにおいてはその解析が困難であり、その大きな原因としてマラリア原虫の持つ多様な免疫回避機構が挙げられる。したがってマラリア原虫の免疫回避機構の詳細な検討はワクチン開発にも重要な情報を賦与する。本研究ではマラリア患者でも頻繁に認められる全般的に免疫抑制に着目し、マウスマラリアモデルにおいてトリプトファンの代謝に関わる免疫調節について検討を行った。 マウスにネズミマラリア原虫Plasmodium yoeliiを感染させるとトリプトファンは減少しその代謝産物であるキヌレニンは増加することからトリプトファン代謝が亢進する。誘導性のトリプトファン代謝は主にインドールアミンジオキシゲナーゼ(IDO)によって触媒されるので、この酵素が感染により活性化されていることが示唆された。そこでIDOの競合的阻害剤である1-メチルトリプトファン(1-MT)を投与したマウスを宿主に用いて感染実験を行った。1-MTの投与により感染マウスで見られたトリプトファンの減少、キヌレニンの増加は抑制され、効率良くIDOが阻害されていることが確認できた。これらの阻害剤投与マウスにおいては、感染初期に感染赤血球率が対照マウスに比べて有意に低く、感染が部分的に抑制されていた。IDO阻害による感染に対する部分的な抵抗性は、1-MT自体には原虫に対する毒性がないことが確認でき宿主免疫応答の増強によることが示唆されたので、免疫応答を解析した。IDO阻害剤投与マウスでは非投与マウスに比べて、T細胞のマラリア原虫に対する増殖応答、インターフェロン産生能が高かった。以上のことからマラリア原虫はIDOを活性化することで宿主免疫を回避していることが示された。
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