沖縄諸島海域に生息し、激しい刺傷被害を引き起こすことが知られているイソギンチャク類ウンバチイソギンチャク2種について、健康被害の実態についての疫学調査を行うとともに、タンパク質毒を分離・精製して、化学的性状を解明し、単離された毒素群の作用機序を探り、刺傷被害時における効果的な治療法開発の基礎となる知見を蓄積することを目的として研究を行ってきた。まず、疫学調査については、ウンバチイソギンチャク類自体の生息数が調査開始時より沖縄海域では年々減少し、今では一部の地域を除き、ほとんど見られなくなったこともあって、現在ではその健康被害はほとんど発生することはなくなった。上述のように、当該イソギンチャク類の激減により、ほとんど入手できなくなり、繰越し申請を行い承認されたわけであるが、今回も予想以上にサンプルの確保が困難であり、十分な実験はできなかった。これまでのところ、(1)フサウンバチイソギンチャクの刺胞球が酢酸により毒素が失活すること、(2)その毒素は透析・限外ろ過等により、活性が10分の1になること、(3)分子量が20Kdaの塩基性タンパクは、赤血球溶血試験および競合阻害試験により、溶血活性が認められたこと、(4)N末端アミノ酸配列で、その遺伝子では他のイソギンチャク溶血毒遺伝子と平均46%の相同性が見られ、予測されるアミノ酸配列も平均56%の相同性が認められること、(5)特にトリプトファンリッチな領域は保存性が高く、溶血活性に強く関わっているものと推測されたこと、(6)新規と思われる4種類のタンパク毒のうち、120kDaのタンパクは強い致死性を示し、また50kDaのものは溶血活性を確認されたことなどの成果が挙げられる。現在さらに毒成分の活性機能と分子特性を解析中である。
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