[背景と目的]微生物や寄生虫の感染によって免疫異常疾患が予防されるという現象(衛生仮説)が、様々な証拠により示唆されてきているが、慢性関節リウマチ(RA)と寄生虫感染の関係は未だ明らかでない。この関係を明らかにするため、本年度我々は、住血吸虫の感染あるいはその抗原の投与が実験的関節炎の発症に与える影響を検討した。 [方法]マンソン住血吸虫(Sm)セルカリアをマウスに感染した後にウシII型コラーゲン(IIC)を免疫して、肉眼観察によるスコアリングおよび四肢の厚み測定を行った。また、経時的に採血を行い血漿抗コラーゲン抗体を測定した。 [結果]Sm感染によって関節炎の指標は有意に低下した。抗コラーゲン抗体値は、対照群においては徐々に上昇したが、感染群においてはこの上昇は見られなかった。灌流によって回収された虫体ペア数と、関節炎指標および抗コラーゲン抗体値は逆相関の関係にあった。感染群においては、脾細胞からのTh1サイトカインや炎症性サイトカイン産生の低下と、Th2サイトカインや抗炎症サイトカイン産生の上昇が観察された。感染の代わりに抗原投与を行った場合、投与群において関節炎強度に若干の増悪傾向が見られたが有意ではなく、炎症性サイトカイン産生の変化も観察されなかった。 [考察]住血吸虫感染によりマウス・コラーゲン関節炎(CIA)の発症が抑制され、同時に炎症抑制方向へのサイトカイン産生パターンの変化が観察されたことから、住血吸虫は宿主にsystemicな抗炎症環境を誘導し、宿主体内での生存を図っている可能性が示唆された。このメカニズムの解明が、慢性炎症性疾患の新治療法開発への一助となることが期待される。
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