研究概要 |
ウェルシュ菌の病原性発現誘導に関与する宿主側因子の解析では、ヒト血清をウェルシュ菌に加えると、病原因子であるシアリダーゼを含む多数の遺伝子の発現が変化することがマイクロアレイ解析により明らかになり、またこの血清中の誘導因子は分子量10万以上でタンパク性のものと推測された。現在、血清を分画して誘導因子の固定を試みている。さらに、すでに作製した28の二成分制御系遺伝子破壊株すべてに対して血清による刺激を行ったところ、4種の二成分制御系欠根株においてシアリダーゼ遺伝子発現の誘導が減弱していたことから、これらの二成分制御系が血清中の誘導因子を感知するものと思われ、現在さらに詳しく解析を進めている。 さらに、今までに様々な条件下にて行った250枚のDNAマイクロアレイ実験のデータを情報解析し、様々な実験条件においても常に同じ発現変化のパターンを示す遺伝子群(オベロンなど)を抽出したところ、ゲノム上の位置は離れているものの常に同じ発現パターンを示す遺伝子群(レギュロン)がはっきりと同定されることがわかった。このうちの1つの遺伝子群を調べたところ、以前に我々が同定した転写調節RMAであるvirXによって様々な遺伝子群が調節されていることが示唆された。これら遺伝子群の発現に対するvirXの影響をノザン解析により調べたところ、シアリダーゼ、3種のヒアルロニダーゼ、プラスミド上のhypothetical遺伝子群、さらに芽胞(胞子)形成に関与する遺伝子群(spoOA, sigF, sigE, sigG, sporulation proteinsなど)の発現をvirXが転写レベルで強く抑制していることが明らかになった。このことは、従来主要な毒素遺伝子の転写を正に制御すると考えられていたvirXがよりグローバルにさまざまな遺伝子の発現を負に調節していることを示し、特にこれまで不明であったウェルシュ菌の芽胞形成制御にも関与していることが示唆された。さらにウェルシュ菌の芽胞形成は本菌の腸管毒素産生を誘導することが知られており、virXが芽胞形成を通じて食中毒の原因である腸管毒素の産生調節にも関与している可能性も考えられる。現在、ウェルシュ菌の芽胞形成とvirXとの関係について精力的に解析を進めており、ウェルシュ菌の病原性を制御ずる様々な因子(VAP,血清因子、二成分制御系、virXなど)が構築する病原性発現調節ネットワータを解明し、治療・予防への応用を目指している。
|