本研究は、腸管病原性大腸菌をモデル細菌として、細菌が宿主細胞に接触して認識するシステムを解明しようとするものである。研究の目的の1つに、菌と宿主細胞が接触したときに特異的に発現する遺伝子をクローニングする実験系の確立があった。この系の構築材料となるべきレポーター菌株の調製を、昨年度から継続して行った。しかし染色体上の16SリボゾームRNA遺伝子中にレポーター配列の挿入したクローンは得られず、さらに、他の遺伝子領域への挿入も試みたが、結局成功には至らなかった。 そこで、レポーター配列に問題があると判断し、昨年度まで使用したレポーター遺伝子sacBの代わりに、rpsL遺伝子を用いる手法に転換した。ただしこれを用いる場合、あらかじめ親株の染色体上のrpsL遺伝子を、ストレプトマイシン耐性型rpsL'へ置き換える必要がある。そこで、E2348/69、Δeae、Δtir、ΔespAという主要4菌株各々について、染色体上rpsLをストレプトマイシン感受性変異型に組み換えた変異体、E2348/69^<SM>、Δeae^<SM>、Δtir^<SM>、ΔespA^<SM>4株の作成に成功した。 また、スクリーニングを高感度にするため、無細胞スクリーニング系の構築も行った。本研究で言う「菌と宿主細胞の結合」は、細胞上のTirと、菌体上のintiminの結合による。そこでTirのintiminの結合領域を組み換え蛋白として発現・精製し、これを菌体表面のintiminと結合させることを試みた。精製組みかえ蛋白は、遊離型、菌体結合型、どちらのintiminとも結合することが確認され、これを用いることで、in vitroの宿主細胞依存性スクリーニングを行うことが可能になった。
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