研究概要 |
近年,細菌の薬剤耐性化が大きな問題となっており,感染症の治療を困難なものとしている。インテグロンは,グラム陰性細菌に広く存在している可動性遺伝因子であり,薬剤耐性遺伝子の細菌間の伝播に関与していることが知られている。また,広範囲のβ-ラクタム剤を分解することで問題となっている基質拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamases, ESBLs)遺伝子も多くの病原細菌で発見されている。その他に,キノロン剤耐性の原因となるプラスミド性のqnr遺伝子やaac(6')-Ib-cr遺伝子なども病原細菌の多剤耐性化に重要な役割を果たしている。本研究では,病原細菌における薬剤耐性遺伝子の分布状況を調べ,耐性遺伝子を詳細に解析することによって耐性遺伝子の進化と伝達のメカニズムを解明することを目的としている。 今年度の研究では,広島市安佐動物公園の動物より単離したグラム陰性細菌の中から薬剤耐性菌の同定と耐性化機構の解析を行った。232株の分離株の中で49株が多剤耐性株であり,これらの菌株からインテグロン(クラス1,クラス2),β-ラクタマーゼ遺伝子,プラスミド性キノロン耐性遺伝子(qnr, aac(6')-Ib-cr)などの種々の薬剤耐性遺伝子が検出された。aac(6')-Ib-crの検出は,おそらく日本で初めてであると考えられる。また,カケスより単離したKlebsiella oxytocaが新たなAmpCタイプのβ-ラクタマーゼであるCMY-26を保有していることを明らかにした。 また,その他の研究として,食肉,水産食品由来の細菌の薬剤耐性化機構の解析も行った。食品に由来する細菌より種々の薬剤耐性遺伝子を検出したことは,食品が薬剤耐性遺伝子の潜在的なリザーバーとして公衆衛生上のリスクを持っていることを明らかにしており,興味深い。
|