志賀毒素(Stx)産生腸管出血性大腸菌(STEC)0157:H7感染が引き起こす致死的合併症(溶血性尿毒症症候群:HUS)の基本病態は、血管内皮障害とフィブリン/血栓形成で、特異受容体(Gb3)に結合したStxの毒性と炎症性サイトカインの協調作用がその原因とされている。今回の研究において、StxとTNF-α存在下における標的細胞でのNO産生亢進が、HUS病態成立に深く関与し、TNF-α刺激により産生亢進するレプチンが、両因子の協調作用を更に促進させていることが確認された。このレプチンの作用は、既に報告したIV型ボスポジエステラーゼ阻害剤(PDEI)の効果に拮抗するものであった。STEC経口感染後18時間までに、腸管組織および血中にTNF-αが有意に産生亢進され、血中には16時間目移行レプチン量が上昇し、この上昇と併行して、血中及び腎、脳内でのNOレベルの亢進が確認され、脳内でのアポトーシス細胞が増加した。Stx非産生大腸菌の経口感染では、これらの変化は確認されなかった。神経細胞を用いた解析から、志賀毒素の標的細胞への毒性発現に細胞内NO産生亢進が不可欠であり、レプチン処理神経細胞ではStx存在下でNO産生充進が著しく増加し、Stx感受性の顕著な元進が認められた。レプチン処理の効果には、細胞膜non-raft中のABCA1発現低下とlipidraft中でのGb3発現増強が認められ、Gb3結合Stxの細胞内取り込み亢進による、神経細胞のアポトーシス増強が認められた。PDEIは、逆にABCA発現亢進とGb3のre-distributionを招き、レプチン作用に拮抗作用をしめした。今回の研究ではleptinの作用機序については明らかにしえなかったが、レプチンによる毒素活性亢進作用はSTEC感染感受性の個体差の一因と推察された。
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