研究概要 |
クオラムセンシングを調節するプロバイオティクスの開発を目的として、各種腸内フローラ構成細菌のバイオフィルム形成に及ぼす研究を行った。バイオフィルムは各種細菌が産生する多糖体により構成され、抗菌薬の浸透阻害や貪食阻害などの効果を有する。バイオフィルム形成はクオラムセンシングにより調節されることが知られており、本研究ではPrattらの方法(1998)の方法に基づき、大腸菌によるマイクロプレート内バイオフィルムアッセイを確立した。被験大腸菌6菌株のバイオフィルム形成能を比較した結果、K12株が最も高度なバイオフィルムを形成することが明らかとなった。また、クオラムセンシングを介在する分子であるautoinducer 2(luxS陽性Vibrio harveyiおよびluxS相補株の大腸菌DH5αPTKY株の培養上清を使用)を本バイオフィルムアッセイ系に添加した際にバイオフィルム形成が亢進することを確認した。腸内フローラ構成菌としてAnaerococcus, Bacteroides, Candida, Clostridium, Enterococcus, Escherichia, Eubacterium, Finegolderia, Fusobacterium, Klebsiella, Propionibacterium, Peptoniphilus, Streptococcus, Veillonellaの14菌属17菌種23菌株を使用した。添加した培養上清のうちコントロール培地に比較してバイオフィルムの形成が低下したものはClostridium difficile, Peptoniphilus asaccharolyticus, Veillonella parvula, Enterococcus faecalisの培養上清であった。一方、バイオフィルム形成の亢進を示したものはBacteroides属およびFusobacterium necrophorumであった。 現在までに健常ヒト成人糞便から腸内菌を1000株以上分離している。今回、確立したバイオフィルムアッセイを用いて、上記の腸内菌のバイオフィルム形成能に及ぼす効果を検討する。緑膿菌、病原性大腸菌、肺炎球菌などのバイオフィルム感染症は治療に抵抗するため、バイオフィルム形成を抑制する腸内菌を分離して新規のプロバイオティクス開発を目指す予定である。
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