研究概要 |
MRSAのβ-ラクタム系薬剤耐性はmecA遺伝子の転写とPBP2'の産生量と関係無く、耐性パターンがそれぞれの低度耐性、ヘテロ耐性、Eagle-type耐性と高度耐性がある。このような黄色ブドウ球菌におけるβラクタム耐性の多様化と高度耐性化には、調節遺伝子群に生じる遺伝学的変異が大きな割合を占めていると考え、本研究を実行することにした。実施した研究の成果について、以下の3点を報告する。1)我々が特定した二つの二成分制御系遺伝子群vraSRとgraSRがMRSAのβ-ラクタムとグリコペプチドを含む多くの細胞壁合成障害系薬剤の耐性と関連する事を見出した。前者はβ-ラクタム耐性をポジチブに、後者はネガチブに制御している事を分かった。特にvraSの正常な発現は細胞壁合成障害剤に耐える(耐性なる)必須条件である事を明らかにした。つまり、この遺伝子は抗菌薬の新規ターゲットになりうる事である。2)当教室で発見したhmrA,hmrB,mrgA,msrA3とgraFを含め幾つ遺伝子(aux或いはfem因子など)の発現レベルの相違が耐性の多様化と高度耐性化に関連していることが明らかだが、耐性株にはこれら全ての遺伝子の塩基配列には変異がなかった。これが他の調節遺伝子群の関与を強く示唆することであり、本研究の結果から「中枢」制御遺伝子の一つであるsarH1が上記遺伝子の発現に強く関与していることを明らかにした。この遺伝子の制御機構について、現在研究を進めている。3)研究成果のもう一つ注目するべき点は、全く新たなβ-ラクタム耐性の制御機構を見出したことである。現在、研究は進行中であるが、今回完全なSCmec(mecAを含む)を持つ超β-ラクタム感受性臨床株の分離に成功した。そして、この株から薬剤に選択せずに高度β-ラクタム系薬剤耐性変異株を分離した。特に、この感受性株と耐性株間でお互いに一定頻度で転移することを見出した。そして、この2株の全ゲノム塩基配列を決定しており、現在解析中である。現段階では、ゲノム塩基配列の変異ではなく、ゲノムの大規模のFlip-Flop逆位がこの株に置ける薬剤耐性に関与すると考えている。更に、このゲノム逆位が今まで病原細菌で謎であるSmail colony variant(SCV)の発生の原因であることも示唆されている。
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