前年度までに、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)のM2-2蛋白質には、TLR7/9シグナル伝達を阻害する能力が存在することを明らかにした。TLR7/9経路は、pDC(形質細胞様樹状細胞)に特化して見られる経路で、インターフェロン(IFN)-αの大量産生に関わっている。したがって、hMPVは、M2-2蛋白質によってIFN-α産生を抑制し自らが増殖しやすい環境を作り出していると考えられた。しかし、hMPVのように呼吸器局所に感染が限局するウイルスでは、そのIFN-αの産生にpDCがほとんど関わらないことが最近報告され、何故hMPVがこのような機構を持っているのか、大きな疑問が生じた。この問題について考察するため、本年度は感染様式の異なる種々のパラミクソウイルスが、TLR7/9経路阻害活性を持つかどうかについて検討した。得られた結果は、以下のようである。 1.局所感染型、全身感染型ウイルスともに、V蛋白質にTLR7/9経路を阻害する活性が認められた。 2.TLR7/9経路の転写因子IRF7のConstitutive active mutantの転写活性もVは阻害できた。 3.Vは特異的にIRF7に結合した。 4.VがIRF7に結合する領域は、Vユニークな領域(C末端領域)であった。 以上から、Vは、ウイルスの感染様式にかかわらず、TLR7/9シグナルを阻害する能力を保持しており、その標的はIRF7だと推定された。一般の細胞では、IRF7の発現は検出限界以下であるが、IFNがいったん細胞に作用するとIRF7が誘導発現され、IFN-βのさらなる産生とIFN-αの産生とを促す。したがって、V蛋白質はpDCのみならず、一般細胞のIFN産生の増大も阻止し、そのことが感染様式に関わらず本能力が保持されている理由だと考えられた。
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