研究概要 |
1.シミアンウイルス5(SV5)のHN-F相互作用に関わる領域の同定 キメラ解析により,SV5(WR株)のHN蛋白のストーク領域の膜近傍部に位置する55アミノ酸領域(aa36-90)がSV5のF蛋白と相互作用して細胞融合を誘導することを明らかにした。一方,SV5のF蛋白においては,そのF1中央部aa203-423がSV5のHN蛋白との相互作用に関わっていることが示唆された。 2.感染細胞におけるSV5(T1株)の細胞融合抑制機能の解析 (1)インフイルエンザウイルス(WSN株)感染Vero細胞を酸性pHで処理すると,著明な細胞融合が誘導されたが,この条件下で,T1株感染Vero細胞には細胞融合の誘導は認められなかった。(2)パラインフルエンザ2型ウイルス(F13株)感染Vero細胞をリゾフォスファチジン酸(LPA)で処理すると細胞融合誘導が促進されたが,この条件下で,T1株感染Vero細胞には細胞融合誘導は認められなかった。 以上の結果から,T1株が細胞融合を誘導せずに増殖するという現象は,既知のメカニズムでは説明できないことが示された。 3.高い細胞融合誘導能を示すT1株バリアントの解析 T1株感染後4日目のVero細胞に出現した極めて小規模な融合細胞(多核巨細胞)を出発材料として,高い細胞融合誘導能を持っバリアント(ST2株)を分離し,以下の結果を得た。(1)ST2株とT1株の増殖速度に差は認められなかったが,ST2株は感染後2日以内に著明な細胞融合をひき起こした。(2)ST2株のHN蛋白に3ケ所のアミノ酸変異(L182R,K451T,V536M)が認められたが,F蛋白には変異は認められなかった。(3)ST2株の細胞融合誘導能がHN蛋白のL182R変異に起因すること。182位の電荷や疎水性がHN蛋白の細胞融合促進能に影響を与えているのではないことを明らかにした。(4)ST2株の受容体結合能はT1株よりも高く,これがL182R変異に起因することが示された。以上の結果から,T1株の低い細胞融合誘導能がその受容体結合能の弱さによるものであることが示唆された。
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