研究概要 |
本年度においては、ヒト神経系の培養細胞(神経芽細胞腫:SK-N-AS,神経膠細胞腫:U118-MG,オリゴデンドロサイト:MO3.13,シュワン細胞:ST88-14,未分化神経細胞:NT2)を用いて、Toll-like receptor (TLR)の発現パターン、インターフェロン(IFN)感受性、ウイルス(麻疹ウイルス:MeV,単純ヘルペスウイルス1型:HSV-1,ムンプスウイルス:MuV,ヒトパラインフルエンザウイルス2型:hPIV2)に対する感受性、ウイルスによるIFN情報伝達系抑制について検討した。 IFN産生に関与している宿主因子の検討では、RIG-1はNT2以外は全て陰性、MDA5は全て陰性、TLR3は全て陰性の結果となった。このことは、正常状態の中枢系ではIFN産生は生じ難い事を示唆する。しかし、いずれの細胞もIFN応答性は正常であり、RIG-I,MDA5,TLR3はIFN処理により有意に発現増強した。従ってウイルス感染等によりIFN誘導は起こる可能性はあるが、IFN情報伝達系を抑制するウイルスでは末梢系と同様にIFN産生も抑制されることが予想された。MeV、MuV,hPIV2はいずれの細胞においても高い増殖性をしめしたが、HSV-1はNT2やU118MGでは増殖性が悪く、感染状態が数ヶ月間維持可能であることが判明した(保有状態の持続感染化)。 サイトカイン産生能を中枢系と比較をするために末梢系細胞(上皮系、単球系)でのMeVとMuVの影響を検討した(発表論文2参照)。MuVはIFN情報伝達系を抑制するが、TLR4情報系は抑制しない。MeVはIFN-α情報系とTLR4情報系(単球のみ)の両者を抑制した。MeVのTLR4系抑制はTRAF6脱ユビキチン因子A20の誘導であることを明らかにした。 神経細胞を得るために、NT2の分化誘導実験に加えて、末梢血液神経幹細胞からの分化誘導の実験を試みた。効率は悪いが末梢血由来神経幹細胞から神経細胞の誘導が可能であった。
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