単純ヘルペスウイルス(HSV)はヒトにとって最も普遍的な神経病原性ウイルスのひとつである。HSVは少なくとも74の遺伝子をコードするが、その半数は培養細胞レベルでの増殖に必須ではないアクセサリー遺伝子である。自然界においてHSVがこれらのアクセサリー遺伝子を維持し続けているのは、個体レベルでの宿主との相互作用に重要な機能を担っているためと考えられる。HSVアクセサリー遺伝子の機能を解析することは、HSVのライフサイクルに関する理解を深めるにとどまらず、HSV感染に伴う種々の疾患に対するよりよい治療法の確立およびワクチン開発の足がかりとなると考えられる。また、より効果的で安全ながん治療を推進する上で必須である。本研究の目的は、HSVアクセサリー遺伝子のひとつであるUS3に着目し、アポトーシス制御、免疫制御および神経病原性発現の分子機構について、マウスに対し高病原性を示す野生株HSV(186株)、そのUS3欠損ミュータント(L1BR1およびLB101)、US3復帰HSV(L1B-11)を用い、in vivoおよびin vitroにおいて包括的に解析することにある。「US3による末梢神経系アポトーシス抑制と神経病原性発現の分子基盤」に関し、in vivo(マウス)の実験より、186株およびLIB-11株は末梢嗅神経にアポトーシスを誘導せず(感染ニューロンはTUNEL陰性)、一方、LIBR1は末梢嗅神経にアポトーシスを誘導した。LlBR1はUS3は末梢神経系におけるアポトーシスを抑制することにより、自然感染経路(経鼻接種法)からのウイルス中枢神経系侵入を促進し、神経病原性を発揮すると考えられた。新規に作成したLB101はマウス末梢嗅神経に対し感染性を示さなかったが、その原因は不明であった(現在、DNAシークエンスを再確認中)。LIBRIによる末梢嗅神経におけるアポトーシス誘導のメカニズムに関してはリン酸化JNKの検出ができず、依然として不明である。嗅神経上皮においてIb 11陽性ミクログリアの検出を試みたが、正常および感染マウスにおいて検出されなかった。
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