成人T細胞白血病(ATL)はヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染により数十年の潜伏期を経て発症する難治性の腫瘍である。白血病細胞はCD4+CCR4+のTh2あるいは制御性T細胞(Treg)に由来すると考えられているが、CD8+T細胞にもHTLV-1は感染できる。重要なことは同じHTLV-1感染がありながらCD8+T細胞からは腫瘍に至らないことである。感染後の両者の違いが腫瘍化の鍵を握っていると考えられる。 我々は、Th2関連転写因子c-MafのATLでの役割を解析中、このc-Maf発現にHTLV-1のCD4およびCD8選択性のヒントがある可能性を見出した。すなわち、(1)ATL患者由来腫瘍細胞でのc-Mafの恒常的発現、(2)c-MafによるHTLV-1 Tax依存性HTLV-1 LTRの活性化抑制、(3)c-Maf発現の違い、即ちCD4+T細胞では静止期および活性化時に強発現しているが、CD8+T細胞では静止期のみの発現である。このことはCD4+T細胞で抗原刺激などによる活性化が起こっても、c-Mafの発現によりTaxのLTR活性化に抑制がかかり、CTLの標的となるTax等のウイルス関連蛋白の産生が抑制されることを示唆している。これに対し、CD8+T細胞では抗原刺激などによる活性化時にc-Mafが発現しないため、LTRの活性化が抑制されず、Tax等のウイルス関連蛋白の発現を招き、HTLV-1特異的CTLによって効率良く除去される可能性が示唆された。 一方、HTLV-1感染細胞はTaxによりケモカインCGL22(=CCR4リガンド)を産生し、CCR4を介してTh2あるいはTregを引き寄せ、細胞間相互作用によってウイルスを伝播すると考えられた。c-MafはTax依存性のこのCCL22活性化をも抑制し、ウイルス伝播についても抑制できる可能性がある。
|