A型インフルエンザウイルスのゲノムは8種類のマイナス鎖RNAから構成されている。これらのウイルスゲノムRNA(vRNA)のウイルス粒子へのインコーポレーション・メカニズムには、二つの説が提案されている。一つは8種類のvRNAが共通の認識構造(インコーポレーション・シグナル)によりランダムに粒子に取り込まれるというランダム・インコーポレーション説で、もう一つは8種類のvRNAはそれぞれ固有のインコーポレーション・シグナルにより認識され、8種8本が一塊になって取り込まれるというセレクティブ・インコーポレーション説である。本研究代表者はこれまでに、インコーポレーション・シグナルが蛋白質翻訳領域にあることを明らかにし、セレクティブ説を支持し、vRNAのインコーポレーション・シグナルは、他のvRNAのシグナルとベースペアを作り互いに認識し合うという、ベースペアリング仮説を提唱している。 この仮説を検証するため、NA vRNAの3'端の183ntを直列に二つ並べ、インコーポレーション・シグナルを含む配列とNA蛋白質翻訳領域を分離した変異vRNA、NA(183)NAを作製し、更に以下の変異を導入した。シグナル配列と考えている部分を元の配列と相補的な配列に代えて、他のvRNAのシグナルとベースペアを構築できなくした変異vRNA(Signal Mutant-1)、また、シグナル配列部分に欠落変異を入れて、別のvRNAとはベースペアを作れなくした変異vRNA(Signal Mutant-2)を作製し、それぞれのインコーポレーション効率を調べた。その結果、これまでインコーポレーション・シグナルと考えていた配列は、相補鎖に変えても、欠落させても、インコーポレーション効率には影響しないことが明らかになった。
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