ヒトパピローマウイルス(HPV)のゲノム複製は感染角化細胞の分化に同調して制御されるが、その分子機構は不明である。そこで角化細胞で発現する細胞転写因子がHPV複製に与える影響を検討した。高リスク型HPV16ゲノムのLCR-E6-E7領域を組み込んだHPV16オリジンプラスミドを、HPV16複製蛋白質E1/E2の発現プラスミドと共にヒト293細胞にトランスフェクションし、72時間後にHirt法にて細胞内のオリジンプラスミドを回収、制限酵素DpnIの消化に抵抗性を示す複製したオリジンプラスミドの量をreal-time PCR法にて定量した。種々の角化細胞転写因子の共発現で生じる複製プラスミド量の変化を調べた結果、HPV複製は角化細胞の分化を誘導する転写因子hSkn-1aの共発現で約2倍に増加した。hSkn-1aのDNA結合能を欠失させたアミノ酸変異体やDNA結合ドメインだけを発現しても複製促進は認められなかった。他の転写因子Oct-1、Tst-1、C/EBPβは複製を阻害し、CDPは顕著な効果を示さなかった。さらに組換えhSkn-1a蛋白質を用いてHPV16のオリジン領域DNA配列に対するゲルシフト解析を行い、二ヶ所のhSkn-1a結合部位を見出した。オリジンプラスミド中のこれらの部位にhSkn-1aの結合が減弱する塩基変異を導入すると、293細胞中でのhSkn-1aによる複製増強作用が消失した。従って、hSkn-1aはHPVオリジンと直接結合することでウイルス複製を増強することが示唆された。hSkn-1aは低リスク型HPV11のオリジンプラスミド複製も増強したことから、hSkn-1aの作用はHPV増殖を助ける普遍的な現象であることが考えられる。
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