研究概要 |
メモリーTh2細胞は、アレルギー疾患の病態に深く関わっていることが予想されているが、分化機構と病態形成における役割についての研究は、現在までほとんど行なわれていない。甲請者は、in vitroで抗原特異的なエフェクターTh2細胞を分化誘導した後、ヌードマウスに移入してメモリーTh2マウスを作製し、純度の高いメモリーTh2細胞を大量に調製できるOVA誘発気道炎症モデルを確立している。このシステムを使い、本年度は、DNAマイクロアレイを用いてメモリーT細胞に特異的に発現する転写因子の同定と制御分子の解析を行なった。 その結果、転写因子GATA3がメモリーTh2細胞におけるTh2細胞記憶の維持に重要であり、その発現制御には、ヒストンメチル基転移酵素の一つであるMLL(Mixed-linage leukemia)が重要であることを見いだした(Imunity.24:611,2006)。この論文において、MLL発現を人為的に低下させるとGATA3の高発現が維持できなくなることを初めて示した。さらに、エフェクターTh2細胞を移入することで作製したTh2マウスを用いた検討で、MLLの発現が低下したTh2マウスでは、正常メモリーTh2マウスと比較して、メモリーTh2細胞依存的なTh2型免疫反応(血中IgE・IgG1の上昇、炎症局所への好酸球遊走、気道過敏性の亢進など)が顕著に低下していることも確認した。 この研究により、免疫記憶の維持にヒストンメチル基転移酵素であるMLLが関与していることが初めて示された。この結果から、分化してしまったメモリーTh2細胞の機能をコントロールすることで慢性アレルギー疾患の病態を制御できる可能性も示唆された。
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