当初予定していた細胞内ドメインを短縮した変異型Notchリガンドを用いたTリンパ球機能制御システムの開発において、有効な変異型分子を作製することができなかった。そこで、本研究の目的に沿った次の2つの研究プロジェクト:(1)Notch分子の糖鎖修飾にかかわるフリンジ(Lfng)のT細胞発生・分化における役割の解明および(2)NK細胞の活性化と機能におけるNotchシグナル系の役割の解明を実施した結果、以下の成果を得た。(1)Lfngを胸腺細胞において強制発現すると、未熟なCD8SP細胞の発生が亢進し、成熟CD4SP細胞やCD8SP細胞の発生は抑制された。逆に胸腺細胞におけるLfngの発現を抑制すると、DN細胞の分化段階での異常によりDP細胞の発生が抑制された。また、造血幹細胞におけるLfngの過剰発現は、T細胞の発生を亢進した。したがって、DN細胞におけるLfngの発現がNotchシグナルを増強し、T細胞の発生・分化を亢進することが示唆された。(2)Jagged2を強制発現させたA20細胞は、生体内での増殖が未処置A20細胞に比べて抑制されたが、その抑制効果はNK細胞を除去することによって消失した。同様に、Jagged2を過剰発現しているDCとA20を一緒に接種すると、マウスでのA20細胞の増殖が抑制された。Jagged2によるNK細胞の刺激は、細胞傷害活性やIFN-γ産生や増殖を直接増強した。NK細胞におけるNotch2のリガンド刺激は細胞傷害活性を増強し、γ-セクレターゼ阻害剤で抑制された。以上の結果から、Jagged2-Notchの相互作用が、DC介在性のNK細胞の細胞傷害活性に重要な役割を担っていることが分かった。さらに、この相互作用を操作することによって、強力な抗腫瘍免疫を誘導する新しいアプローチが可能となるかもしれない。
|