研究概要 |
サイトカインシグナルの負の調節因子SOCS1が大腸の免疫恒常性維持に重要であることを見いだした。TCRα欠損マウスで発症するヒト潰瘍性大腸炎類似のTh2型慢性大腸炎はSOCS1欠損により増悪化し、これがTh2型サイトカインIL-4だけでなくTh1型のIFNγやLPSのシグナル増強にも起因することがわかり、SOCS1がTh1/2双方のシグナルを制御し慢性大腸炎の発症・増悪化を抑制している事が示された^1。更にSOCS1欠損マウスとT細胞B細胞特異的SOCS1Tgマウスを交配したSOCS1KOTgマウス(T, B細胞以外の細胞でSOCS1欠損)は重篤な大腸炎を呈し、6ヶ月齢でp53の変異やβカテニンの蓄積を伴う大腸癌が高頻度に発症し、癌部位に炎症細胞浸潤とCOX2,iNOS等の発癌関連遺伝子の発現を認めた^2。この炎症と発癌はIFNγに依存的であった。これはSOCS1が大腸炎抑制因子である共に慢性炎症による発癌を抑制する新しいタイプの癌抑制遺伝であることを示唆する。 また、ヒト肝癌で繊維化の程度に応じたTGFβ発現上昇とSOCS3発現低下が観察され、月刊蔵特異的SOCS3欠損マウスは薬剤誘発性の肝繊維化が増悪化し、STAT3活性化とTGFβ産生の亢進を認めた^3。肝繊維化と肝癌発症の過程でSTAT3が直接TGFβの産生を誘導し繊維化に導き、SOCS3がそれを抑制していることが示唆された。 一方、自然免疫で重要なTNFRファミリー、IL-1R/TLRファミリーのシグナル伝達因子TRAF6がT細胞で欠損すると予想外にも多臓器炎症性疾患を発症した4。TRAF6欠損T細胞は、PI3K-Akt経路が過剰に活性化し制御性T細胞による抑制がかからない。つまりエフェクターT細胞を寛容にするシグナルに対し感受性を制御する内在性機構が存在し、T細胞のTRAF6が抹消の免疫寛容維持に重要であることを示唆する。
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