本研究は、サイトカインシグナルの抑制因子SOCSに焦点をあて、1.免疫抑制的に働く制御性の樹状細胞やT細胞の誘導とその抑制作用の分子機序を解明すること、2.炎症性サイトカインシグナルの終息機構とその破綻からもたらされる慢性炎症や発がんの仕組みを明らかにすることを目的とする。 1.STAT3関連サイトカインのシグナルを抑制するSOCS3がT細胞で欠損すると、TGFβ産生が上昇し、抑制性のTh3(Foxp3+Treg)細胞の誘導が亢進した。さらにSOCS3を欠損させた樹状細胞も、樹状細胞の成熟抑制とTGFβの発現亢進により、ナイーブT細胞を選択的にTh3細胞に誘導した。SOCS3のターゲットであるSTAT3を恒常的に活性化させても同様の樹状細胞成熟化の抑制がみられた。重要な点は、抗原パルスしたSOCS3欠損樹状細胞が実際に自己免疫疾患モデルの病態発症を抑制したことである。 2.STAT1/6関連サイトカインのシグナルを抑制するSOCS1が欠損すると、TCRα欠損マウスで発症するTh2型慢性大腸炎が増悪化した。これはTh2型サイトカインIL-4だけでなくTh1型のIFNγやLPSのシグナル増強にも起因することがわかり、SOCS1がTh1/2双方のシグナルを制御し慢性大腸炎の発症と増悪化を抑制している事が示された。更にT、B細胞以外の細胞でSOCS1が欠損するマウスには重篤な大腸炎と共に大腸癌が高頻度で発症し、癌部位には炎症細胞の浸潤とCOX2、iNOS等の発癌関連遺伝子の発現上昇を認めた。この炎症と発癌はIFNγに依存的であった。これらはSOCS1が大腸炎抑制因子であると共に慢性炎症による発癌を抑制する新しいタイプの癌抑制遺伝子であることを示唆する重要な知見である。
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