本研究においては、新規にB細胞選択的にRasGRP3を欠失するマウスの作出に成功した。そのマウスにおいては、抗原レセプター刺激によって誘導されるRasの活性化が阻害されており、抗原レセプター依存性のRasの活性化が従来言われていたように、SOSによるものではなく、B細胞においては、主にRasGRP3を介するものであるということを明らかにした。さらに、このマウスにおいて、血清中の抗DNA抗体価を測定したところ、コントロール群に比べて有意に高値を示したことから、自己応答性のB細胞の選択に以上をきたしている可能性が強く示唆された。そこで、このマウスと抗HEL抗体トランスジェニックマウスを交配して、RasGRP3欠損抗HEL抗体陽性B細胞を得て、これらの細胞をモデル自己抗原となるsHELを発現しているマウスに移植した。その結果、一定の割合で移植した細胞が除去されず逆に増殖している場合があることが明らかとなり、このようなモデル系においても、自己反応性のB細胞がRasGRP3の欠失により正常に行われなくなる可能性があるということが示された。 さらに、この自己反応性細胞に対する負の選択異常が、どのような機構で起きているのかを明らかとするために、in vitroにおいて、RasGRP3欠損成熟B細胞の抗原レセプターを高架橋してアポトーシスを誘導する系において、正常に反応するかどうかを検討した。その結果、有意に抗原レセプター刺激依存性のアポトーシスの誘導が阻害されていることが示された。また、この抗原レセプターの高架橋によるアポトーシスの誘導にはRasの活性化が重要な役割を果たしていることが示唆された。以上より、RasGRP3は、Rasの活性化を介する抗原レセプター依存性のアポトーシスにおいて重要な役割を果たしているということが示された。
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