医療における身体拘束などの行動制限の管理手法については、申請者らの精神科領域の急性期治療場面における研究から、手法の類型化が可能であり、診療ツールを用いたデータを集積・分析することによって医療行為の安全性や効率性、診療の質確保に貢献できる可能性があることが判明している。一方、身体拘束は精神科に限らずどの医療領域においても実施の必要性が存在し、基準や概念、評価方法などの情報を共有して、領域を超えた形で有用な技術の開発および安全性向上の可能性がある。本研究ではこれらをふまえ、初年度までに各種の情報発信の機会を設けると同時に、既存調査研究の詳細な分析を行い、申請者が所属する医療機関では病院全体で行う安全管理講習で討論するなど、領域を超えて有用性の高い身体拘束の考え方・あり方を継続的に検討した。その結果、同意、最小化、判断などの要素において精神科および一般身体科の各領域間で若干の概念相違が見られ、精神科における法的規制がある種の特殊性を生じている可能性が示唆された。本年度は、申請者が所属する医療機関において全診療科を対象とした実態調査を行い、更なる検討を重ねた。その結果、一般診療科を含め身体拘束は日常的に行われていることが示され、その頻度は重症度や症状特性との関連が示唆された。関連インシデントの発生は重症管理下で少なく、マンパワーがその発生を防いでいる可能性が否定できなかった。また、インシデントを予防することが身体拘束の長期化予防につながる可能性が示唆された。今後はこれらの結果をふまえ、各方面からの情報・意見収集を重ね、多くの領域で共有可能な概念基準や診療ツールの開発可能性を継続的に検討していく予定である。
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