研究課題
基盤研究(C)
網膜症、動脈硬化症などの合併症を引き起こす糖尿病患者の約95%は、インスリン抵抗性を示す2型糖尿病である。従ってインスリン抵抗性改善作用を示す化合物は、2型糖尿病治療薬の新しい治療薬になる可能性を秘めているといえよう。しかし現在臨床応用されているインスリン抵抗性改善作用を示す2型糖尿病治療薬はチアゾリジン化合物しかない。それは、簡便かつ、一度に大量のサンプルを処理できるスクリーニング系がなかったからである。従ってもしチアゾリジン骨格とは異なる構造と作用機構をもち、かっインスリン抵抗性を改善する化合物をも検索できるスクリーニング系が確立されたならば、2型糖尿病克服の起爆剤になると期待できよう。我々はST・13前脂肪細胞の分化誘導活性を指標にすることによって、インスリン抵抗性改善薬シーズを検索できる新しいスクリーニング系を確立した。すなわち、インスリン抵抗性を改善する有力な鍵分子候補であり、脂肪細胞に特異的に発現している分泌蛋白であるアディポネクチンの発現・分泌を促進する機能分子の探索を本研究で行った。その結果、606種類の天然物由来の粗抽出物、精製化合物、合成化合物(最終濃度:単一化合物[10μM]、粗抽出物[400μg/ml])をアッセイしたところ、25種類(単一化合物あるいは粗抽出物)のサンプルがST-13前脂肪細胞を分化誘導することが顕微鏡観察によって判明した。そこでそのうちの一つであるノビレチンについて、その分化誘導作用をさらに詳細に検討した。中性脂肪含量はトリオレインを標準品にしてアセチルアセトン法によって、またタンパク量はウシ血清アルブミンを標準品にしてLowry法を用いてそれぞれ測定した。その結果、ノビレチンの濃度に依存して、処理した細胞中に含まれる中性脂肪含量が増加することが認められた。そこで、ノビレチンによりST-13前脂肪細胞が脂肪細胞に分化したかを分子細胞生物学的に明らかにするために、ノビレチンで処理したST-13細胞からmRNAを抽出しadipocyte protein 2(aP2)の発現をリアルタイムPCR(polymerase chain reaction法を用いて解析した。aP2は脂肪細胞に特異的に発現するタンパク質の一つであり、脂肪細胞の分化マーカーとして用いられているからである。この測定の際、ハウスキーピング遺伝子であるGAPD且を用いて補正を行った。その結果ノビレチン処理したST13細胞では、ネガティブコントロールと比較してaP2の発現量が約220倍増加していた。このことから、ノビレチンは脂肪細胞への分化誘導作用を促進していることが分子レベルでも確認された。そこでアディポネクチンタンパク量をELISA(enzyme-linked immunosorbent assay)を用いて、アディポネクチンmRNAの発現をリアルタイムPCR法を用いて解析した。その結果、ノビレチンは処理したST-13細胞中のアディポネクチンmRNA発現の促進を介して、細胞外へアディポネクチンタンパク質を分泌している可能性が示された。
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