(目的)インターフェロンγ(IFNγ)のレセプターはR1とR2から構成される。肝細胞には通常、R1は発現しているが、R2については発現していないか、あるいは低レベルしか発現していない。IFNγはその生理作用として腫瘍細胞に対する増殖抑制効果を有するが、この抗腫瘍効果が発揮されるか否かは、細胞が発現しているR1とR2のバランスによると考えられている。すなわちR2の発現レベルが高い場合はIFNγの抗腫瘍効果が発揮され、低い場合は発揮されない。従って、肝癌細胞においてR2の発現を増加させることができれば、IFNγによる治療効果が期待できる。本研究においては、鉄イオンを調節することで肝細胞におけるR2の発現を増加させることが可能か、またこれがIFNγの抗腫瘍効果を増強するか否かについて検討した。 (方法)2種類の肝細胞癌株HUH7とSNU449を通常の細胞培養液(G1)、鉄イオンキレート剤であるDFO添加培養液(G2)IFNγ添加培養液(G3)、DFO+IFNγ添加培養液(G4)を用いて培養した。まず、G1とG2においてR1とR2の発現FACSにより比較検討、2)増殖抑制効果をMTT法により検討、3)アポトーシスの関与をannexin V染色によるFACSで検討した。 (結果)癌細胞におけるIFNγレセプターの発現を検討したところ、G2においてR2の有意な発現増加を認めた。Rについては有意な変化を認めなかった。次に、IFNγの増殖抑制効果を、MTT法を用いて検討した。その結果、G2およびG3においてG5に比して、肝癌細胞株の増殖が有意に抑制された。さらにG4においてG2およびG5よりもさらに強いIFNγの増殖抑制効果を認めた。最後にこれらIFNγの抗腫瘍効果のメカニズムにおけるアポトーシスの関与について検討したところ、G4においてアポトーシス細胞が増加していることが判明した。 (考察)肝細胞癌に対しては現在も有効な化学療法が存在しない。本研究はIFNγの生理作用の一つである抗腫瘍効果を肝細胞癌治療に用いるべく検討したものである。近年、IFNγの生理作用が標的細胞の発現しているR1とR2のバランスに左右されることが、Tリンパ球を用いた検討で明らかにされてきた。しかしこのメカニズムがTリンパ球以外にも存在するか否かは不明であった。本研究はIFNγレセプター、特にR2が鉄イオンをキレートすることで肝細胞癌細胞膜上に発現増加すること、これがIFNγの抗腫瘍効果の増強につながることを初めて明らかにした。今後は臨床応用に用いることができるよう、検討を進める予定である。
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