NSAIDが消化管障害などの副作用を有することはよく知られている。また、RA患者では他のNSAID使用者に比べてNSAIDによる消化管障害のリスクが高いことが報告されている。本研究では、この現象を基礎実験レベルで再現し、その機序について検討した。アジュバント関節炎ラットでは、インドメタシンおよびジクロフェナク誘起小腸傷害の発生が胃の場合と同様に著明に増悪することを認めた。また関節炎ラットの小腸粘膜では、iNOS発現および腸内細菌由来のリボ多糖の認識分子であるTLR4を発現したマクロファージの小腸粘膜内への浸潤が著明に増大していた。これらの結果から、関節炎ラットにおけるNSAID誘起小腸傷害の増悪は、TLR4陽性マクロファージの増加によるiNOS発現の増大によるものと推察される。また、iNOS発現に重要なプロセスであるNF-kappaBの活性化がNSAID投与後に認められ、タクロリムスはNF-kappaBの活性化を阻害することによりiNOS発現を低下させた結果、小腸傷害を抑制することが判明した。さらに、関節炎ラットにおけるNSAID誘起胃損傷の増悪では、iNOSのみならず内皮性NOS(eNOS)発現も著明に増大していることを観察した。セルレイン誘発急性膵炎発症時にはeNOSの不安定モノマーの生成による活性酸素産生の増大が病態発生に寄与していることを明らかにしたが、関節炎ラットの胃粘膜ではeNOSモノマーの生成は認められず、eNOS由来のNO産生の増大が認められた。また、関節炎ラットにおけるNSAID誘起胃損傷の増悪は選択的iNOS阻害薬によっては部分的な抑制に留まっていたが、非選択的NOS阻害薬によりほぼ完全に抑制された。以上の結果より、関節炎ラットの胃粘膜ではiNOSのみならずeNOSから産生されるNOもまた傷害性に寄与しているものと推察される。
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