我々はこれまでの研究でNotchシグナルが白血病細胞の増殖に関与することを見出した。このことより、Notchシグナルの制御は白血病に対する新たな分子標的治療となる可能性が生じる。本研究では白血病細胞の増殖におけるNotchシグナルの作用機序を、細胞分子生物学的手法で解析するとともに、Notchシグナル阻害剤などを用いたシグナル制御が細胞増殖に与える影響をin vitroで解析した。 急性骨髄性白血病、T細胞性急性リンパ性白血病、B細胞性リンパ腫の細胞株をNotchシグナル抑制作用を持つガンマセクレターゼ阻害剤を添加して培養し、細胞の増殖や分化に対する効果を調べた。ガンマセクレターゼ阻害剤は一部の細胞株に対して、アポトーシスを介した増殖抑制をきたすことを見出した(Oncology Reports2007)。び漫性大細胞型B細胞リンパ腫患者のリンパ腫細胞から新たな細胞株を樹立した。この細胞株はNOTCH1遺伝子変異を有していないにも関わらず、Notchシグナルが恒常的に活性化しており、ガンマセクレターゼ阻害剤によりアポトーシスを介した増殖抑制をきたした(Leukemia Research 2006)。 急性骨髄性白血病細胞20検体におけるNOTCH1遺伝子の変異を解析し、1例にPEST領域のミスセンス変異を認めた。この症例ではNotch1蛋白の恒常的活性化が認められた。T細胞性急性リンパ性白血病と異なり、急性骨髄性白血病ではNOTCH1遺伝子の変異は稀であることがわかった(Leukemia Lymphoma 2006)。骨髄異形成症候群20例ではNOTCH1遺伝子変異は認められなかった。Notchリガンド蛋白刺激はこれらの細胞のコロニー形成能を低下させる傾向がみられた(Leukemia Research 2007)。 以上より、Notchシグナルの制御が白血病に対する分子標的治療となりうる可能性を見出した。
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