本研究では、タンパク質と低分子有機化合物との相互作用を微量の試料で精密測定する方法の開発を目指した。その結果、ミクロフロンタルゲルろ過法(mFGC)を確立することに成功し、微量の血液で血清タンパク質(アルブミンなど)の代謝産物や薬物に対する結合機能を定量化できるようになった。今後、本方法を自動化し、血清タンパク質の熱力学的結合パラメーターという新しい診断項目が糖尿病や高脂血症などに対する有用な診断情報になるかどうかを検証する。以下に主要な成果を示す。 1.50μL-スケールでの超微量FGCを実現。内径0.5mm、長さ10cmのキャピラリーカラムに高性能ゲルろ過樹脂を充填、高圧ナノシリンジポンプによる無脈流送液、流路容積の微量化などにより、50μLの試料で正確な結合データが得られるようになった。 2.mFGC理論の確立。実態に即したmFGCのモデル化を行い、厳密な計算機シミュレーションのアルゴリズムを作成・実行して、FGCがキャピラリーカラムでも可能なことを理論的に示した。また、実測データの信頼性を評価する手順を確立した。 3.ヒト血清アルブミンの精密結合データベースの構築を開始。X線結晶構造から主結合部位が原子レベルで分かっているリガンドに対する精密結合曲線をmFGCで系統的に測定し、結合データベースの構築を開始した。すでに、抗凝固剤のワーファリンなどで新しい情報が得られている。 4.個体別ラット血清アルブミンの精密結合機能測定に成功。100μLのラット血清から2ステップでのアルブミン精製を行い、そのS-ワーファリン結合曲線を測定することに成功した。これにより、mFGCが臨床検査への応用できることが明らかになった。
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