HIVはその補助受容体利用からCCR5を利用するR5ウイルスとCXCR4を利用するX4ウイルスに分類され、病態の悪化とともにR5ウイルスからX4ウイルスヘシフトすると考えられている。今回はその中間体と考えられているCCR5とCXCR4を利用するR5X4ウイルスに着目してそのシフトに関与するウイルスエンベロープ部位を決定した。使用した89.6株はCXCR4阻害剤での感染阻害が強く、よりCXCR4利用側にシフトしたウイルスであるが、その補助受容体利用を主に決定しているエンベロープのV3領域の単独アミノ酸置換ウイルスを作製し、そのシフトに関与している部位を決定した。以前の報告からV3領域の11番、24番、25番のアミノ酸がCXCR4利用と関連していると考えられているので、今回は89.6株のV3領域の11番、24番、25番の変異ウイルスを作製し、その補助受容体利用と補助受容体阻害剤感受性を補助受容体発現NP2/CD4細胞株を使用して検討した。いずれの変異株ウイルスも野生株89.6と同様にCCR5とCXCR4を利用するR5X4ウイルスであった。補助受容体阻害剤に対する感受性では、24番および25番の部位の変異体はすべてCCR5阻害剤では阻害されず、CXCR4阻害剤で阻害を受けることから、野生株と同様にCXCR4利用側へシフトしているウイルスであることが示された。一方11番のアミノ酸変異ウイルスはCCR5阻害剤で阻害され、CXCR4阻害剤で阻害を受けないこと、さらにCCR5低発現細胞への感染効率が相対的に高いことより、CCR5へ比較的強い親和性を有していると考えられ、CCR5利用側へシフトしていることが判明した。以上のデータより89.6株においてはV3領域の11番目のアミノ酸が補助受容体シフトに重要であり、24番ないし25番目のアミノ酸は関与していないことが明らかとなった。
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