HIVはその補助受容体利用からCCR5を利用するR5ウイルスとCXCR4を利用するX4ウイルスに分類され、病態の悪化とともにR5ウイルスからX4ウイルスヘシフトすると考えられている。本研究ではその中間体と考えられているCCR5とCXCR4を利用するR5X4ウイルスに着目してそのシフトに関与するウイルスエンベロープ部位を決定することを目的として研究を行った。まず代表的なR5X4ウイルスでCXCR4利用性優位である89.6株からin vitroでCXCR4阻害剤であるT140の添加によりウイルスに選択圧をかけ、T140に対して約5倍耐性のウイルスを分離した。このウイルスはそのエンベロープのV3領域の11番目のアミノ酸のArginineからSerineへの置換を有していた。そこで89.6株のV3領域の11番の変異ウイルスを作製し、その補助受容体利用と補助受容体阻害剤感受性を検討した。変異株ウイルスも野生株89.6と同様にCCR5とCXCR4を利用するR5X4ウイルスであったが、補助受容体阻害剤に対する感受性から、変異ウイルスはCCR5利用優位のウイルスヘシフトしていることが判明した。次に臨床から分離されたCXCR4利用優位のR5X4株であるKMT株について89.6株と同様にCXCR4阻害剤であるAMD3100耐性ウイルスを分離した。そこでこのウイルスのV3領域近傍のアミノ酸配列を確認したが、野生株のKMT株と同様の配列を示しており、この耐性株はV3領域のアミノ酸置換による補助受容体のシフトを誘導することなく耐性を獲得している可能性が示唆された。このようにシフト誘導能は感染個体内のウイルス株依存的であり、何らかの選択圧の存在下でV3領域の変異を導入してしまうと補助受容体への親和性が低下してしまうため、結果としてシフトがおこりにくい株と、V3領域にアミノ酸置換をおこしてもCXCR4ないしCCR5のいずれかの補助受容体への親和性を保つことが可能である株の存在が示唆され、本研究で開発されたアッセイ系を応用することで、試験管内でシフト誘導能を予測することが可能であることを示した。
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