研究概要 |
現在,数多くの腫瘍マーカーが癌診断の補助的な指標や癌治療後のモニタリングの指標として利用されているが,それぞれの臨床的意義が改めて問い直されるとともに,新しい腫瘍マーカーに期待が寄せられ,とくに治療の標的にもなりうる抗原の開拓が望まれている。本研究は,新しい腫瘍関連抗原Ep-CAMを標的にした治療に向けての意義を総合的に検討するもので,平成19年度は,次のような点を明らかにした。 まず,ヒト抗Ep-CAM scFvを含むキメラ、レセプターを作製し,その性状を解析した。キメラ、レセプター遺伝子は,ヒト抗Ep-CAM scFv遺伝子をT細胞レセプター複合体の一部で細胞内情報伝達に重要な働きを有するCD3のζ鎖遺伝子と結合させることで膜結合型とし,レトロベクターを利用してリンパ球に導入した。次いで,ヒトのEp-CAM発現癌細胞MI(N-45を標的とし,キメラ、レセプター遺伝子を導入したヒトLAK細胞の抗腫瘍活性をMTTアッセイ法で解析した。その結果,有意義な抗腫瘍効果が見られた。 次に,ヒト抗Ep-CAM scFvを含むIL-2融合タンパクを作製し,その性状を解析した。融合タンパク遺伝子の作製は,ヒト抗Ep-CAMscFv遺伝子とヒトのIL-2遺伝子とを酵母発現ベクター上にて分泌型で結合させ,酵母培養法で産生させた。次いで,ヒトのEp-CAM発現癌細胞MKN-45を標的とし,精製した融合タンパクとヒトLAK細胞との抗腫瘍活性を解析した。その結果,有意義な抗腫瘍効果が見られた。そこで,精製した融合タンパクとヒトLAK細胞と組み合わせによる抗腫瘍活性について,MKN-5細胞を移植したSCIDマウスで解析した結果,有意義な腫瘍発育抑制効果が得られた。 以上の結果から,新しく作制した完全ヒト型の抗Ep-CAM抗体が癌の免疫療法に有用であることが示唆された。
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