研究概要 |
本研究の目的は,これまでに開発した手法を用いて,ストレスホルモンあるいは内分泌撹乱物質の神経組織,生殖組織および細胞内情報伝達への影響を調べることである。 本研究では,まず,微量のコルチゾールの存在下で,培養細胞に誘導したアポトーシスにどのような影響を与えるか検討するとともに,いくつかのアポトーシス関連因子の動態についても検討した。対象としては腎細胞由来のPC12細胞ならびにチャイニーズハムスター卵巣由来のCHO細胞を用い,アポトーシスの誘導は培養液中の栄養因子であるFetal Bovine Serumの除去あるいは6-hydroxydopaminの添加により行った。アポトーシスによるDNA損傷はTUNEL法、アポトーシス関連因子BaxおよびBcl-2の発現量はRT-PCR法により求めた。 CHO細胞の場合,アポトーシスの定量的測定では,対照群に比較して10μM添加群が有意に低い値を示した(p<0.05)。アポトーシス因子(BAX, Bcl-2)の測定では,Baxの2時間後のみ対照群に比較して増大の傾向が認められた。(P<0.1) 細胞内の信号伝達におけるコルチゾールの作用をみるためにアポトーシス関連因子である,Bax, Bcl-2について検討したが,Baxが促進するよう働いていることが示唆された。以上のことから,微量のコルチゾールはアポトーシスを抑制するものの,それが作用している系を同定することはできなかった。この結果から,微量コルチゾールによるアポトーシス抑制はアポトーシス関連因子の直接的な作用でなく、別の系の影響である可能性が示唆された。 PC12細胞の場合は,100nMおよび10uMのコルチゾールは細胞に誘導したアポトーシスを抑制する事が認められた。また,その関連因子であるBaxやBcl-2も変動する傾向が示された。これらの関連因子はBcl-2遺伝子によるミトコンドリア内アポトーシス関連機能に含まれるものであり,微量なコルチゾールがこの遺伝子系に影響を与えることが考えられた。 また,環境ホルモンの一種と考えられているノニルフェノールのPC12細胞に対する影響も検討しているところである。これまでの我々の研究から,ノニルフェノールはアポトーシス機構を増強することが確認されている。このメカニズムを推定するために,アポトーシス誘導のシグナル分子の一つであるFasLの発現量,この経路上のアポトーシス関連酵素カスパーゼ8,ならびに別経路の重要な物質チトクロームCの発現量も測定した。また,細胞中のカスパーゼも測定した。現在データを分析中であるが,カスパーゼ8の寄与が大きいことが示唆されている。
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