前年度にはディーゼル排ガス中に存在することがわかっているミネラルオイルの一成分であるヘキサデカンをマウス腹腔内に投与して免疫学的影響について検討し、自己抗体をマウスに誘導することを示した。しかし、ディーゼル排ガスを直接マウスに暴露する実験ではマウスに自己抗体を確認できなかった。 本年度は前年度の結果を参考にして、ディーゼル排ガス暴露を長期に行う計画を考えたが、暴露チャンバーを設置している施設(国立環境研究所)の協力が得られず行えなかった。そこで、ミネラルオイルによってなぜ自己抗体が誘導されるのかについて実験的研究を行った。 ミネラルオイルで誘導される自己抗体は実は人SLE患者に特徴的な自己抗体と同様なものであることがわかっているため、ミネラルオイル投与マウスと人SLEに共通なメカニズムがあるのではないかと考えた。人のSLEはT細胞の機能不全が原因と考えられており、T細胞内のCD3ζの異常が関与しているとする研究者もいる。そこで我々は鉱物油を腹腔内に投与したマウスのT細胞内のCD3ζの発現を検討した。すでに自己抗体を誘導することがわかっている鉱物油の1つであるプリスタンをマウスに投与し、そのマウスからT細胞を採取して、T細胞内のCD3ζの発現をFCM(フローサイトメトリー)によって検討した。 すると、CD3ζは減少していた。これは人のSLEと同様の現象であった。また、人のSLEでは血清中のアルジニンが減少していることもわかっている。そこでプリスタン投与マウスの血清アルジニンを測定した。すると人と同様にプリステイン投与マウスのアルジニンは減少していた。さらに、CD3ζの発現が低下しているプリステイン投与マウスのT細胞にアルジニンを追加すると、CD3ζの発現が回復することも確認した。 以上から、鉱物油での自己抗体誘導のメカニズムには人におけるようにCD3ζ発現が何らかの関係があり、CD3ζ発現には血清中のアルジニンが関係していることがわかった。総合的に考えると鉱物油を腹腔内に投与することによって何らかの機構から血清中のアルジニンが低下し、CD3ζが減少し、T細胞の機能不全が起こるのではないという仮説が考えられた。 今後さらに詳細に研究を続けたいと考えている。
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