(1)2年計画の初年度であるが、ほぼ予定通りの研究が実施できた。 (2)申請者らは、尼崎市にあるクボタ旧石綿管製造工場近隣に非職業性の胸膜中皮腫患者の集積がみられることを死亡診断書により確認し、しかも患者の当時の居住地の分布は風向のシミュレーション結果よく一致することを見出している。しかし一方で、中皮腫の臨床診断は難しいとされ、誤診や疑診例が混じているとの指摘がよくなされる。そこで本研究は、診療情報開示により入手しえた診断根拠、画像の再読影、病理組織標本の再検査による中皮腫の診断精度の検討を目的として実施しているものである。 (3)旧石綿管工場付近に居住歴を持ち、面接調査で職業性石綿曝露が否定できた中皮腫患者は、本年1月末現在、116名に達した。うち80名から診療情報開示に関する同意書が得られた。 (4)診療情報の開示の結果、80名全員の診療録、56名の画像記録、32名の中皮組織(腫瘍部分)のパラフィンブロック、10名のホルマリン固定標本(肺と中皮)が入手できた。 (5)入手できた診療録の70名については、病理組織診断(免疫染色結果を含む)に基づく診断であった。 (6)56名の画像記録については、一定のクライテリアに基づき、3人の独立した専門家による読影会を実施した。いずれも胸膜中皮腫と矛盾しない結果が得られている。詳細は現在、集計中であるが、典型的な胸膜プラークを含め胸膜変化が見られたものは2割程度に留まっている。 (7)32名の中皮組織(腫瘍部分)についての免疫染色を用いた病理組織診断については、現在、専門家とその手順について検討中であり、次年度に持ち越される見通しである。 (8)10名のホルマリン固定の肺組織については、石綿小体数の計測、一部、電顕による繊維組織の同定を行った。石綿小体数はバックグランドよりも有意に高く、かっ職業性曝露で観察される小体数よりも有意に低い結果が得られている。また、繊維分析で青石綿が検出される例が見つかっている。
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