ラットを普通食と鉄欠乏食で飼育しながら、カドミウム(Cd)(2mg/kg)を週2回、3ヵ月間皮下投与後に末梢血並びに臓器を採取し、赤血球数、Hb、Ht、血漿鉄、TIBC、フェリチン(Ft)、エリスロポエチン(Epo)、臓器中鉄濃度を測定した。その結果、Cdの慢性中毒によって貧血が起こるが、血漿鉄濃度は減少したものの、普通食群と鉄欠乏食群のいずれでも末梢血中Ft濃度並びに臓器中鉄濃度の上昇が見られた。さらに、^<59>Fe用いて消化管からの鉄吸収動態を調べたところ、小腸からの鉄吸収は亢進していた。以上の結果より、この貧血は明らかに鉄欠乏性のものではないと考えられた。一方、腎臓で作られる造血ホルモンであるEpoの血液中濃度と腎臓中の鉄濃度は逆相関を示したことより、Cdにより腎臓に蓄積した鉄がEpoの産生を抑制し、腎性貧血が発症することが考えられた。 ラットを普通食と鉄欠乏食で7週間飼育し、その後10、100、1000pg/kgの濃度のエストロゲン(E_2)を連続6日間皮下投与して、末梢血並びに臓器を採取し、赤血球数、Hb、Ht、血漿鉄、TIBC、Ft、Epo、臓器中鉄濃度を測定した。その結果、鉄欠乏ラットではE_2の濃度依存性に血漿中の鉄並びにFt濃度が上昇し、小球性低色素性貧血も改善傾向を示した。さらに、^<59>Fe用いて消化管からの鉄吸収動態を調べたところ、鉄欠乏ラットではE_2の濃度依存性に十二指腸からの鉄吸収並びに臓器への鉄分布が亢進した。そして、種々の鉄輸送体のmRNAの発現をリアルタイムPCRで観察したところ、十二指腸ではDMT-1の発現が亢進し、肝臓では鉄欠乏により低下していたhepcidinの発現が回復する、という結果が得られた。これらの結果は、鉄欠乏状態ではE_2には十二指腸におけるDMT-1の発現を充進することによって鉄吸収を促進する作用があると考えられた。
|