ラットを普通食と鉄欠乏食で飼育しながら、カドミウム(Cd)(2mg/kg)を週2回、1、3ヵ月間皮下投与し、Cdのエリスロポエチン(Epo)産生抑制作用によって惹起される腎性貧血における鉄代謝の変化と鉄欠乏性及び溶血性貧血の関与について調べた。Cd投与後1ヶ月では腎臓に器質的障害は無く、Epoの機能的産生抑制による腎性貧血が認められたが、3ヶ月後では腎臓に器質的障害が起こり、Epo産生細胞の破壊による腎性貧血となり、それに鉄欠乏性、溶血性の機序も加わって貧血は非常に重度となった。この機序を血液・尿検査、組織学的検査、臓器中鉄濃度の測定、鉄の動態実験、鉄代謝関連遺伝子発現の解析、等の結果から以下のように考察した。まずCdの直接的な赤血球に対する影響により溶血性貧血が進行し、そのために放出された鉄が臓器中に蓄積する。一方でEpoの不足のために鉄の有効利用が低下し、さらに臓器への鉄の蓄積が促進される。しかし、臓器中の鉄は有効利用されず、ヘモグロビンの合成が低下するために「見かけ上の鉄欠乏性貧血」が惹起される。以上より、慢性Cd中毒では鉄欠乏性、溶血性、腎性の3つの機序の相互作用により貧血が急速に進行すると考えられた。 ラットを普通食と鉄欠乏食で飼育しながらエストロゲン(E_2)(10、100、1000μg/kg)を週3回2ヶ月間皮下投与し、E_2の鉄代謝に対する影響を観察した。E_2は正常では消化管からの鉄吸収及び臓器への鉄の取り込みを量依存性に抑制したが、これはE_2の肝臓でのhepcidinの発現充進作用により十二指腸のferroportin量が低下したためと考えられた。一方、鉄欠乏状態ではE_2は消化管からの鉄吸収及び肝臓、腎臓への鉄の取り込みを促進したが、これは十二指腸におけるferroportin、DMT-1、cybrdl、hephaestinの発現亢進によるものと考えられた。
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