研究概要 |
神経・内分泌・免疫系は密接なネットワークを形成し、生体の恒常性維持に貢献している。しかし、ストレスにより産生されるホルモンや神経伝達物質による免疫機能の修飾について、その生物学的意義や調節機構の多くがまだ解明されていない。我々はすでに、運動トレーニングはマクロファージのβ_2アドレナリン受容体(β_2AR)発現量を低下させ、感染防御に重要なサイトカイン産生能を増強することを報告した。本研究では、特に感染防御における運動効果を明らかにしていくことを目的とし、β_2ARと細菌の細胞壁を構成するリポポリサッカライド(LPS)の受容体であるToll様受容体(TLR4)のクロストークを解析した。 LPS刺激によりβ_2ARの著しい発現低下が認められた。TLR4の下流には少なくとも2つの情報伝達系(MyD88依存性とTRIF依存性)の存在が知られている。そこで、それぞれのsiRNAによりその発現をノックダウンしたRAW264細胞をLPS刺激し、β_2AR発現量変化を解析した結果、β_2AR発現抑制がTRIF依存性情報伝達系により制御されていることが明らかとなった。β_2AR強発現細胞株(RAWar)を樹立し,LPS応答におけるβ_2AR発現抑制の役割を検索した。RAWar細胞にはNF-κBの活性化抑制が認められた。β_2ARの発現抑制はβ-arrestin2の発現抑制を伴っていた。β-arrestin2は、IκBαの安定化と分解阻害を行うことによってNF-κBの活性化を調節している。従って、TRIF依存性のβ_2ARとβ-arrestin2の発現抑制により、TRIF依存性IκBαの分解とNF-κBの活性化が促進されることが示唆された。加えて、TRIF依存性のβ_2ARとβ-arrestin2の発現抑制は、ストレスなどによるβ_2-ARからの抗炎症性シグナルを回避する機構であることが推察された。
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