研究課題
基盤研究(C)
平成18年度にはヒトのトククロロエチレン(以下、TCE)暴露後のトランスクリプトームを得た。解析上の要求が満たされたことになり、以前に得ているヒト、マウス、ラットのトランスクリプトームと併せ、3種の比較検討を行った。4個体のうち、少なくとも3以上でP or Mとなったプローブについて、ベイズの定理により、有意(p<0.01)に変化したプローブを抽出した。Web上に公開されている解析ソフト、MAPPFinderやGSEA(Gene Set Enrichment Analysis)で解析を行った。「MAPPFinderによる機能別解析」では、マウスの5mM、24時間にのみβ酸化関連遺伝子の発現の亢進がみられた。また,「GSEAによるトランスクリプトーム間の類似性の検討」では、TCE曝露に際し、ヒトで発現の低下する遺伝子には、ラットに類似性があるという結果となった。ヒトにおけるTCEの代謝産物はトリクロロ酢酸やトリクロロエタノールであり、代謝産物の視点からはヒトはマウスに近いといわれている。ペルオキシゾーム増殖という視点からは、トリクロロ酢酸やジクロロ酢酸の産生が重要と思われるが、β酸化の亢進はその下流にあると考えられる。β酸化が発がんの始まりであるとすると、ヒトにおけるTCEの代謝産物がトリクロロ酢酸であっても、「MAPPFinderによる機能別解析」の結果は興味深い。ペルオキシゾーム増殖薬への感受性は、げっ歯類はヒトより高く、マウスとラットではマウスの感受性が高いと言われている。マウスにのみβ酸化関連遺伝子の発現の亢進がみられたのは、TCEではマウスでは肝がんがみられ、ラットではみられない知見とも矛盾しない。一回の実験で多数のpathwayについての検討が可能なマイクロアレイは、実験動物における健康影響発生のメカニズムの解明と相挨って、ヒトへの危害を考える上で有用なツールと考えられた。
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