今後患者の増加が予想される脂肪肝からの肝発癌予防戦略の一環として、昨年度に引き続き生下時より脂肪肝を発症し、12カ月齢以降に高率に肝腫瘍を合併するFLSマウスを用い、肝発癌機序の解明とその予防法について検討した。昨年度に引き続き、種々の餌で飼育したFLSマウスの肝組織を採取し、組織学的検討とともに蛋白、遺伝子発現について解析した。普通の餌投与(コントロール群)、乳酸菌投与群、酪酸菌投与のFLSマウス3群と、正常マウスの計4群で比較検討した。 酸化ストレスのマーカーである8-OHdGと4-HNEの肝臓での発現を酵素抗体法で調べたところ、8-OHdGはコントロール群でもわずかにしか検出されなかったが、4-HNEは10ヵ月齢のコントロール群で肝に著明に検出された。一方酪酸菌投与群では発現は著明に減弱していた。また、前癌病変のGST陽性細胞も10ヵ月齢コントロール群では検出されたが、酪酸菌投与群では検出されなかった。酵素抗体法によるNF-κBの発現は、コントロール群で多くみられたが、酪酸菌投与群ではわずかであった。RT-PCRによる遺伝子発現の解析では、NF-κBはコントロール群、乳酸菌投与群と比較し、酪酸菌投与群では減弱していた。c-junの発現も、コントロール群、乳酸菌投与群では検出されたが、酪酸菌投与群ではみられなかった。 コントロール群と酪酸菌4カ月投与群のFLSマウス10カ月齢の肝臓からRNAを抽出し、マイクロアレイで遺伝子発現を比較したところ、酪酸菌投与群ではレチノイン酸受容体γ(RARγ)の発現上昇がみられた。 以上より、FLSマウスにおける肝発癌には酸化ストレスによるNF-κB、c-junの発現増加が関与している事が示唆された。酪酸菌投与は、肝臓での酸化ストレスを抑制すると共にRARγを誘導し、肝発癌抑制に働くと考えられた。
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