本研究は地域における自殺予防対策をメンタルヘルスの視点から評価することを目的とし、過去6年間取り組んできた地域と、その地域に隣接する具体的な取り組みをしていない地域の20歳以上の住民を対象に調査を実施した。実際の自殺死亡率については、取り組みを行っている地域は減少した状態が継続しているが、隣接している地域では増減を繰り返し明らかな減少傾向はみられていない。 調査内容は基本的属性の他、社会的支援、抑うつ度(SDS)、健康に関する意識、自殺に対する意識、ストレス対処、ソーシャルキャピタル、そしてPTSD(IES-R)である。(PTSDについては調査準備中に対象地域で小学生連続殺害事件が発生したため急遽追加した。なおこの事件の影響で調査が約2ヶ月遅れることになった。) 調査の結果、自殺予防対策に取り組んだ地域では社会的支援(特に道具的支援)とストレス対処における相談行動が多くみられた。一方抑うつ度や希死念慮については二つの地域に差は無かった。 (PTSDについては事件現場となった地区の住民に高い割合でPTSDの可能性が疑われたが、地域全体としても約17%がPTSDの疑いがあった。) 以上の結果から自殺予防対策の成果は直接抑うつ度を改善するものではなく、住民が相談出来る窓口についての情報を得ることや具体的な支援を受けられるという安心感が影響していることが示された。
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